1977年生まれ。小樽商科大学大学院アントレプレナーシップ専攻MBA取得。 現在は、株式会社INDETAIL 株式会社CricketFarm 代表取締役CEO、北海道科学大学客員教授、 ベンチャー企業社外取締役。 シリアルアントレプレナーとして事業売却を複数経験。2016年よりブロックチェーンの取り組みを開始。 実証実験などのユースケースを築き上げる一方、啓蒙活動として年間30以上の講演を全国で行う。代表取締役を務める株式会社CricketFarmでは、食用コオロギの養殖・加工製品の販売を手掛ける。成長産業で事業を展開するシリアルアントレプレナー。
理工系の大学に進学しましたが、ひたすらプログラミングを行うような地道な作業は私には向いていませんでした。
また、就職活動時には、会社員として働くタイプではないと感じつつも、選択肢は「就職」しかないと思い込んでいました。ただ、当時から周囲の人とは違う自分を認められたい。何かを成し遂げたいといった自己実現欲求を持っていました。
新卒で就職した飲食系企業では人事に配属となり、学生に向けて企業説明や採用活動を行う中で、自身の最大の強みは理系的なスキルではなく、コミュニケーション能力であることに気づくことが出来ました。
そこから、学生時代に培った理系の知識とコミュニケーション能力を最大限発揮できるような企業で働きたいと考え、人材会社への転職を果たします。
入社後は事務職の派遣営業として、各企業へ提案営業を行いました。その後、社内の新規事業コンペにてエンジニア派遣を起案した結果、事業化することになり、エンジニアの一般派遣事業に従事します。最終的に北海道支社の支社長まで経験しました。
人材会社で感じた違和感は、会社の決定事項が全て東京基準で決定することでした。
その決定の中には、地方の地域性に合わないものも多く、もっとローカライズしていくべきであると訴えていましたね。
人材会社で働いていた時に、登録型派遣はエンジニアの特性と合っていないことに感じました。エンジニアは自社内で開発を行いたい人が多いため、エンジニアを派遣するのではなく案件を獲得して自社でプロダクト開発をしていく事が最善であると考えます。
この案を社長に提案しておりましたが、話が進むことがなかったため起業しました。
開発部隊を北海道に持ち東京で案件を獲得していく形で、会社は順調に成長。外部からの資金調達をおこない、IPOに向けて動いていました。
IPOを目指す過程でピボットを行い、C2Cスマホコマース事業を開始しましたが、競合ひしめく中で1社が大きく市場シェアを伸ばしたことでこの事業を事業譲渡しました。これが初めてのM&Aです。
IPOへの道のりは、証券会社の審査が通り証券取引所に申請を出す段階まで来ていました。
しかしながら、審査開始前日に問題が発覚し、予定していたスケジュールでのIPOが出来ない状況になりました。IPOは1度ストップしてしまうと少なくとも半年~1年の期間が必要となり急遽議論することに。結果として、IPOからM&Aへ路線を変更しました。
M&Aの候補先は、証券会社からリストを貰った段階で150社程ありました。そこから候補先を絞り込み5社に絞ります。2018年10月にM&Aへ舵を切って、最終リストが出たのは同年の12月です。
最後は2社を比較検討しておりましたが、VCと話し合いを重ねた上で株式会社スマートバリューへの事業譲渡を決めました。
譲渡先を決めるにあたり、社員にとってプラスになること大前提として考えています。
ベンチャー企業でIPOを目指している社員にとって、上場企業の社員になれるというインセンティブは大きいと思います。また、福利厚生と社員の処遇は下がらないように注意していました。
外部株主は投資対象としてPERや時価総額を大切にしますが、IPOをする為には足元の数字が重視されます。
そのギャップに対しては、経営者として違和感を感じます。また、ベンチャー企業が世の中に求められることは「事業の時価総額を追い求めること」なのではないかと感じ、そういった考え方のもと「時価総額至上主義に徹する」を会社のビジョンの1つとして掲げています。
この考えを軸として、私たちの会社では事業を立ち上げ軌道に乗せていく中で、より資金力のある企業が事業を行う方が良いと判断した段階で事業譲渡を選択するようにしています。私にとってM&Aは、バトンタッチと捉えているので「事業譲渡」を選択しています。
IT業界に携わっていると、トレンドの変化を目まぐるしく感じます。開発という部分だけに絞ってみると「ソシャゲ」が一時期ブームになっていましたが、流行はピークアウトするタイミングがあり、そういった一つ一つの事業のピークアウトのタイミングで社員のモチベーションも二極化していきます。その2パターンは、事業が好きだからそのまま継続していきたい人と今後流行っていきそうな事業に方向転換したい人です。後者にとっては、当社は複数事業を社内で展開しているので、メリットが大きいです。
0→1を立ち上げることがベンチャーの役割として、IPOが事業成功のための中間地点と設定すると、IPOまでは到達できないがこれからも伸びそうである事業は、上場企業に「バトンタッチ」をして事業成長を担っていただく形がベストではないかとM&Aを通じて考え方が変わりました。
当社のセオリーとして事業領域は、多くの人が手を出さないような領域であり、前例が少ないような領域での事業展開を考えています。そのような領域こそ、時価総額の高い事業が眠っている可能性が高いのです。
とはいえ、このような領域で事業展開をすることは大きなリスクが伴います。また、市場を最初に切り開くような企業は、多くのマーケティングコストをが必要です。
当社は市場を最初に切り開く企業を追随して差別化を図り、事業を確立させる方法を取ります。先陣を切る企業は市場の将来性を見せてくれるので、今後伸びていくかどうかを図るうえで注目すべきです。
これからの世の中、コロナによる市場変化と株価の暴落で市場が冷え込むことが想定されます。仮想通貨やメタバースといった領域は厳しいのではないかと考えています。これまでのIT市場はお金が余っていたが故に成長した市場です。例えば、現在戦時中のウクライナの方々がメタバースやweb3.0に魅力を感じることはほとんどないですよね。それよりも食料や住環境など生活を軸にしたところに目がいきます。
今後は食糧・気候問題や格差社会、エネルギー問題といったオールドビジネスに近い分野が注目されていくと考えています。そこに立ち返りながら、新たな要素を加えてアップデートした事業を考えていきたいです。
先見の明がある点だと思います。遠い未来ではなく1年後、2年後の近い世界を見ることです。
例えば自動運転技術などの研究開発を行っている企業がありますが、それは遠い未来に対する事業です。ベンチャー企業は資金力が豊富ではないため、遠い未来を見すぎると企業体力がないため消えていく運命にあります。
資本が豊富にあるような会社の戦い方とは異なり、ベンチャー企業は短期的な成長を描くことが大切なので、短期目標を立てスピード感を持って着実に事業を成長させることは私の強みです。
M&Aで大切なことは、ベストなタイミングを逃さないことです。
難しいですが、全ての人に対して納得感を与えることも疎かにしてはいけないポイントですね。
例えば、売却後に大量離職が発生するという事例を耳にしますが、1つの要因としては市場が落ち込み始めている状況でM&Aに踏み切ったことが起因していると思います。しかしながら、業界が成長途中にある段階でM&Aをすることで、M&Aによるモチベーション低下より事業成長に対する情熱が勝ると思います。
私のオススメのタイミングは市場がピークアウトを迎える2、3年前でのM&Aです。
会社が更なる成長が出来る段階でバトンタッチし、皆がハッピーになれることを望みます。
■株式会社INDETAIL
https://www.indetail.co.jp/
■株式会社CricketFarm
https://www.cricketfarm.co.jp/
■坪井大輔オフィシャルサイト
https://www.indetail.co.jp/tsuboi/
■著書:『WHY BLOCKCHAIN』
https://www.amazon.co.jp/dp/4798162655
■著書:『アウト・オブ・フォーカス』
https://www.amazon.co.jp/dp/4798164569