熊谷豪氏

譲渡企業:シングラー株式会社
  譲受企業:パーソルキャリア株式会社

最短距離で人材分析をDX化に導いた起業家

1983年生まれ。明治大学卒業後、ベンチャーのモバイル広告代理店に入社し、人事採用業務に従事。2011年に人事採用の上流戦略を提案するHRディレクションカンパニーを立ち上げ、コンサルティングファーム、ITベンチャー、教育、食品会社などの採用チーム立ち上げ・再建を中心とした採用コンサルティング全般に携る。2016年11月シングラー株式会社を設立し、面接CX(候補者体験)を高めて内定辞退を防ぐ「HRアナリスト」を発表。同サービスでエントリーした日本最大級のスタートアップカンファレンス「B Dash Camp 2017 Summer in Sapporo」で準優勝に輝く。「HRアナリスト」をコアとしたHR Techによる人材採用の変革を推進中。 2018年5月にパーソルキャリア株式会社へシングラー株式会社を売却。 2022年9月でシングラー株式会社代表取締役を退任。

譲渡企業

会社名
シングラー株式会社
事業内容
HRアナリストの開発、販売

譲渡内容

譲渡額
非公開
譲渡範囲
100%

EXITERの経歴

氏名
熊谷豪
経歴
1983年生まれ。明治大学卒業後、ベンチャーのモバイル広告代理店に入社し、人事採用業務に従事。2011年に人事採用の上流戦略を提案するHRディレクションカンパニーを立ち上げ、コンサルティングファーム、ITベンチャー、教育、食品会社などの採用チーム立ち上げ・再建を中心とした採用コンサルティング全般に携る。2016年11月シングラー株式会社を設立し、面接CX(候補者体験)を高めて内定辞退を防ぐ「HRアナリスト」を発表。同サービスでエントリーした日本最大級のスタートアップカンファレンス「B Dash Camp 2017 Summer in Sapporo」で準優勝に輝く。「HRアナリスト」をコアとしたHR Techによる人材採用の変革を推進中。
2018年5月にパーソルキャリア株式会社へシングラー株式会社を売却。
2022年9月でシングラー株式会社代表取締役を退任。

留学費用を稼ぐために起業

大学在学中にドイツへ留学に行きたいと考え、どうやったら効率よくお金を稼いで留学費用を貯めることができるかの検討の結果、アルバイトではどうしても時給と働く時間で稼げる額の天井が見えてしまうと思い起業を決意しました。
事業内容としては、原宿などの古着屋で古着を購入してそれをモバイルのネットオークションに出品し地方の学生向けに販売するというビジネスをやっていました。
今でいうところのセドリのようなことをやっていましたが、当時はまだやっている人が少なかったので比較的稼げたほうでした。

無事留学資金を貯めることができたので、大学を1年休学してドイツ留学を行いドイツでの充実した生活を送ることができました。
日本へ戻ってきてからは起業という気持ちは一切なく、普通に就職活動を行ってベンチャーのモバイル広告代理店に就職しました。

モバイル広告代理店への就職

当時の就活の軸として、「自分が尊敬できる人たちのために自分の力を活かしたい」という部分を重要視しており、たまたま縁のあったベンチャーのモバイル広告代理店がハードワークを重ねていたところを見て、自分の力を活かすならここだと感じてもらっていた大手企業からの内定も全て辞退し、入社を決めました。
入社してからは採用担当として従事し、ハードワークをこなす日々を過ごしました。

その後会社の方針が自分の考えとミスマッチになってきたタイミングで、会社を辞めることにしましたが、どこかへ転職するくらいであれば自分で起業したいと思い、HRディレクションカンパニーを設立しました。

HRアナリストの開発までの経緯

HRディレクションカンパニーでは、主に企業の採用に関するコンサル業務を行っていました。
4,5年経営する中で、コンサル業は労働集約型ビジネスのため、アップサイドが見えない上に世の中に直接何か貢献している感じもしない点から、いまの仕事に対してこのままでいいのか?と思うようになっていきました。

そんな時、前職のモバイル広告代理店時代に自分が採用したエンジニアが、モバイル広告代理店の会社を辞めると聞いたので食事に行ったところ、「システムやプロダクトという形で世の中に貢献できるものを一緒に作ろう」という話になり、一緒に起業することに決めました。

いざプロダクトのアイデアを出すにあたって、自分のこれまでの採用に関しての仕事の課題を解決できるソリューションの開発をと思い、様々なアイデアを出しました。
具体的には採用のマッチングシステムなど、10個くらいアイデアを出して議論をしていきました。

私がコンサルを行っていた時のことを考えると、企業側の問題点は大きく分けて2パターン存在しました。
1点目は面接が終わった後に次のフェーズにあげるのが決まっていたとしても、連絡が遅い、日程調整が遅いなどのきちんとやるべきことをやらずに、優秀な人材を取りこぼしてしまうことです。
2点目は面接内容がめちゃくちゃで、せっかくいい人がいてもうまく面接を進めることができないという点です。
結果的にコンサルで入った際も自分が面接官の隣に座り、ささやき女将のような形態でアドバイスを出して面接を進めるというようなことをやっていました。

この2点の問題点を同時に解決できるソリューションとして、「HRアナリスト」を考えました。
採用のマッチングシステムなどのアイデアも出していましたが、特に自分がこれまで経験したコンサルの中で採用に関する仕事の課題を解決するプロダクトになりそうだと感じた上に、ファンドの方々からも、HRアナリストの評判がよかったので、HRアナリストで進めることにしました。

シングラー株式会社の設立

設立当初はお金の面で非常に苦労しました。
都市伝説のようなものにはなりますが、スタートアップは起業した後は業務委託等は受けないほうがいいというのがあったので、HRディレクションカンパニーの顧問契約やコンサル契約はすべて辞め、HRディレクションカンパニー自体も休眠状態にしました。
プロダクト自体は会社登記から3週間程度でベータ版の開発が完了しましたが、会社登記よりも前からプロダクトのアイデアと開発に専念していたので、数か月で資金がつきかけたためバーンレートを下げるため、都内のいいところに構えていたオフィスを蕨に移転し、そこでルームシェアをしながら会社登記を行いました。
会社登記から3か月間、ベータ版をユーザー様にご利用いただいて、そのフィードバックを受けて改修の工程を繰り返し、HRアナリストはほぼ完成しました。

その後、B Dash Camp 2017 Summer in Sapporoのピッチアリーナで準優勝して、大きいメディアでもしっかり記事にしてもらえたので、そこから一気に問い合わせが得ることとなりました。
HR業界の会社から当社でも取扱わせてほしいということだったり、VCから資金調達の話だったり、様々なお問い合わせを頂くようになりました。

M&Aプロセス

HRアナリストのサービス開始当時はスタートアップ=IPOを目指すというのが主流の考え方だったので、当然私もIPOを目指し、シリーズAの資金調達に向けて動き始めました。
資金調達も順調に進み、VCから投資稟議が下りてあとは契約書をまいて着金するだけという段階に入ったところで、メンバーの一人がM&Aも選択肢としてあるのではないか?という話をし始めました。
その話が出てからM&Aの検討を始め、契約のお返事までの時間も差し迫っていたため、1週間くらいでM&Aに話をシフトし、M&Aをすることに決めました。

この急展開の理由としては、当時の社内のメンバー3人とも会社をIPOさせることよりも、「プロダクトをどうしたら世の中の人たちに多く使ってもらえるか?」ということを最重要ミッションにしていたため、それであれば人材の大手企業と一緒になることで世の中の多くの人たちに使ってもらえるだろう、という方向に考え方がシフトしました。

パーソルキャリアへの売却を決めた選定理由は、シングラー側から「売却企業側にもHRアナリストの事業部を作ること」、「給与体系や働き方の要望」など、いくつか条件を提示しており、それを一番多く受け入れてくれたのがパーソルキャリアだったため、パーソルキャリアへの売却に決めました。
HRアナリストを拡販していく中で買収したのはいいものの、あとは勝手にやってくれというスタンスではなく、シングラーと並走してくれるような会社に売却をしたかった、というところが大きな理由です。

また、会社創業後1年半でアーンアウトでの売却となったためプロダクトの育成も済んでいなかったことから、自ら3年のロックアップを提案しました。
ロックアップというと創業者側の縛りのイメージがありますが、私たちはプロダクトだけ取られてクビを切られてしまう、アーンアウトの形態のM&Aなのに、途中で辞めさせられる等のリスクを回避するため、ロックアップを自らかけるという手法をとりました。

結果的には売却当初100社程度だった取引先が退任までの間に4,000社まで増え、多くの企業に使ってもらえるプロダクトに育てることができました。
さらに、現在はパーソルキャリアのDODAの裏側に組み込みを行っており、これもHRアナリストの利用者を増やすこととなったので、当初の目標のプロダクトを多くの人々に使ってもらいたいという思いは果たせたと思っています。

次なる挑戦

昨年の6月に退任してからは、スタートアップへの投資をしてその企業のお手伝いをしたり、自分の事業の構想を練ったりしながら過ごしています。
次はインターネットを介したプロダクトというよりも、何かモノやヒト、環境が介在するビジネスをやりたいと思っています。
SaaSとかは今から始めるのは遅いと思いますし、次に来る何かのビジネスはSaaSではないと思っているので、個人的にはもっとトラディショナルなビジネスをやりたいなと考えています。

M&Aを考えている起業家へのアドバイス

一昔前と比べて、現在はポジティブなM&Aが増えてきていると思います。
これまでは経営が立ち行かなくなった会社が他の会社に助けてもらう、もしくは経営者の高齢化で跡継ぎがおらず寿命的に厳しいとか、そういうパターンが多くありました。
しかし現在は、「いかにして自社のプロダクトを伸ばそうか」という視点で大手の資本を使って加速度的に会社を成長させていくための資金調達の一種として、戦略的にM&Aを活用できる世の中になってきていると感じています。
また、営業網の拡大だったり、バックオフィスのリソースだったり、スタートアップでは到底持つことのできない、お金以上に大事な投資が大企業から注入されることもM&Aの魅力です。

もちろんいい所の側面だけではなく、M&Aも契約ごとになるため不可逆的なものになります。
慎重に取り組むようにしなければなりません。
私自身もアーンアウトという通常の手法よりもかなり複雑なタイプのM&Aを経験したのでわかるのですが、売却時の評価算定方法などはしっかりと交渉した上で契約書を結ぶ必要があることを実感しました。
M&Aは100%で一括売却することが一番楽であり、基本的には構造が複雑になればなるほど難しくなると理解した上でM&Aに取り組むようにしてください。

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